『養生訓』に学ぶ
『養生訓』
に学ぶ
2018.04.20『養生訓』と貝原益軒③
貝原益軒は70歳で役を退き著述業に専念、下記の著書を完成しました。
『近世武家編年略』『宗像郡風土記』『贐行訓話』『音楽紀聞』『扶桑記勝』『黒田忠之公譜』『点例』『和歌紀聞』『五倫訓』『君子訓』『宗像三社縁記』『菜譜』『古詩断句』『鄙事記』『和漢古諺』『大和俗訓』『大和本草』『岐蘇路記』『篤信一世用財記』『薬訓』『和俗童子訓』『岡港神社縁起』『有馬名所記』『五常訓』『家道訓』『心画規範』『自娯集』『養生訓』『諸州巡覧記』『日光名勝記』『慎思録』『大疑録』。
この多彩な書目のなかでとりわけ目をひくのが、植物学・薬物学における画期的労作『大和本草』(16巻、付図2巻)である。
本草書として最も名高いのは中国・明代の李時珍(1518-93)による『本草綱目』52巻で、1900種近い薬物の調査・採集から分類までを27年かけて完成させたもので、世界的に貴重な文献として海外からも高い評価を得、出版物は日本や朝鮮にも伝わり、ドイツ語・フランス語・ロシア語などにも翻訳されて、植物学の国際的発展に大きく寄与した。また薬学・医学だけでなく、生物・化学・地理・地質・鉄鉱・歴史の諸分野にわたる内容まで幅広く記述されている世界最高水準の博物書であり、ダーウィンの『種の起源』にもこの書からの引用がある。そしてこの本は江戸時代の日本にも伝わり、貝原益軒はじめ多くの学者、医者に多大な影響を与えた。
益軒の生涯の成果ともいえる『大和本草』(全16巻、付図2巻)には、『本草綱目』から720種、他の本草書から200種余、日本固有種358種など計1,362種の自然物が引用され、
独自の方法で配列されている。李時珍は75歳で大著が完成させたが、年齢的に李時珍とほぼ同じ益軒も一生をかけての勉強・更新・昇華の成果を日本にもたらした。漢方医としての研究は、日本独自の風土に合う「和医」の始まりともいえよう。
そして亡くなる前年に書いたのが代表作『養生訓』である。益軒は早くから、養生論の源流にある中国の養生文化について研究を続け、また養生文化から派生した漢方医薬も学び、長年にわたって実践してきた経験がある。したがって『養生訓』は養生文化に対する深い理解に基づいているだけでなく、養生文化を実践し、十分に咀嚼したうえで日本の風土に合うように解釈を加えて養生論を説いたものとなっている。